霊能者・三田光一の霊能開発書
霊観
三田光一（善靖）=著 Ａ5判 ソフトカバー復刻版
3,080円（本体2,800円＋税10%）
月の裏側の念写や、第一次大戦の終結日の予言的中で知られる霊能者・三田光一の霊能開発実践指南書。とくに霊能開発の基本として、大気養法、呼吸法を初歩から奥伝まで写真入りで懇切丁寧に指導。さらに、「なんらの苦痛なく、きわめて単純に練習しやすく、しかもその効果において著しい成績をおさめている」修法として、著者の創案になる精神旅行法の具体的な実習法について詳しく述べている。これは精神統一法であると同時に、縮地法、幽体離脱をもっとも簡単に体験できる修法として貴重である。これだけでも2800円以上の値打ちあり。
福来友吉博士との念写実験でのちに有名になる霊能者の三田光一（善靖）は、呼吸法と暗示法を巧みに結合し、それに特化した霊術家でもあった。
三田は青年時代に肺結核に冒され、不治と宣言された。
しかし「自分は病人である」という観念を捨て、「わが心身は健全である」と観念し、医者の薬を強壮剤であると信じて呑み、丹田を強化する調息法を研究実践し克服した。
三田はこの原体験にもとづいて「大気養法」を創案し、一世を風靡する。本書にはその全貌が写真入りで懇切に説明されている。
大気養法は調身法と調息法からなる。
調身法は、心身のバランスを保つ姿勢法である。踞座、半跏趺坐、椅座、直立、行歩、仰臥とそれぞれ望ましい姿勢のあり方が規定されている。
調息法は鍛錬呼吸法と神呼吸法の二段階からなる。
鍛錬呼吸法は、松原の胸式吐納法法と丹田式吐納法を一回の動作で連続させたような趣きでやや複雑であるが、呼気、定気、押気、漏気、耐気、呼気、二段呼気、次気、横隔膜運動などの概念を明らかにしたうえでの説明はわかりやすい。
重要なのは、鍛錬呼吸法がそれ自体で治病霊術になっている点で、本書には「鍛錬呼吸実修中の観念」という節が立てられている。
松原皎月の「観念式吐納法」と同じく呼吸とともに自己暗示をかける技法であるが、その内容はよりラディカルである。
「自己にいかなる疾患があっても、絶対にそれを確認せず、第一に己を健康者と確定して実修をなす」ことが強調され、「慢性の胃拡張であるとか、腸カタルであるとか、または神経衰弱のために何事も引き込み主義であるとか、先天的に意志が薄弱であるため、生き生きとした活動はもはや不可能であるなぞと、その疾患を自覚することは絶対に禁物である」とされる。
鍛錬呼吸法は心身のバランスを調整するだけではなく、呼吸法によって脳波をα波、θ波の状態に誘導し「自分は健康である」という自己暗示を強力に刷り込むための手段でもあるわけだ。
三田は「この修養法によって自分の病気は全治する」ではダメだという。
なぜなら、その裏にはややもすれば「本当に治るだろうか」という疑問が付随するからである。
だから「自分は健康である」という自己暗示が、なりより大事であると三田はいうのである。
「病弱だから風邪をひきやすい」と信じ込むと、実際に風邪をひきやすくなり、痛みを感じる人が「この痛みは治らない」と思い込んでいると、痛みが長引き、「○○病」という診断をされるとかえって治るものも治らなくなるという事例は枚挙に暇がない。
その意味で、三田のラディカルな自己暗示法は、いまでも傾聴すべき知見といえよう。温故知新というが、戦前の霊術関係の書籍は知恵の宝庫なのである。
さて、鍛錬呼吸法を熱心に実習すれば、意識せずとも気力はつねに丹田にに充実し、いよいよ進むにつれて、その呼吸は呼吸器のみの呼吸ではなく、全身の毛穴より宇宙の大気を呼吸する状態に至る。
ここにおいて精神を統一すると、神霊の実在を認識し、神人合一の域に到達し、自己の霊的生命を自覚するに至る。
この状態を、三田は神呼吸法と称した。これは松原皎月が、丹田呼吸法の最終レベルに位置づけたのと同じ状態、つまり神仙道でいう胎息の状態である。
この神呼吸法を効率的に習得する技法についても、三田は指導しているが、ここでは省略する。
それよりも、ここでは、三田ならではの、類をみない霊術技法として「精神旅行法」について紹介しておこう。
三田によれば、それは「なんらの苦痛なく、きわめて単純に練習しやすく、しかもその効果において著しい成績をおさめている」精神統一法である。
三田は療養中に自分は健康であるという自己暗示を徹底し、朝夕に呼吸法を行うとともに、「心身保養」の目的で「精神登山」「精神温泉入浴」につとめた。
かつて富士に登山し、はるか箱根連峰や大海原を眼下に眺め、雄大な霊気に同化したときの勇壮な気分、あるいは熱海の温泉に足を止め、空に一点の雲なく、海上をゆく真帆、片帆を眺めつつ、なんらの煩悶なく愉快かつ安穏に過ごした当時の愉悦を味わうために、精神旅行を繰り返すうちに、三田の病は快方に向かった
このように過去に訪れた神社仏閣、名所旧跡、温泉など、特に感慨深く脳裏に印象をとどめた場所に精神を集中し、当時の潜在意識を浮かびあがらせ、再びその感覚を味わうのが精神旅行法である。
精神旅行法は鍛錬呼吸法とともに行うが、神呼吸法の域に達した人はきわめてリアルな体験を得ることができる。
精神旅行法は、療養という目的を超えて、体外離脱をもっとも簡単に可能にする技法でもある。
『霊観』では、最初は意識の投影にすぎない体験を繰り返すうちに、それがだんだん鮮明になり、ついには実際に空間を超越した事例についても述べられている。
この技法は観想法とも相通じ、ちょっとしたこつがあるが、それはまたの機会にしたい。（武田崇元）
◎三田光一と月の裏面念写
三田光一（善靖）は明治十八年、宮城県本吉郡気仙沼市に生まれた。子どものころから超能力を現し、母親を困らせた。しばしば「この間の放火は誰それの放火したもの」「あの人のものを盗んだのは誰それ」と言いだし、半信半疑で警察が調べるとそのとおりだったので、天狗小僧、魔法使いとして郷党の間に噂され た。やがて奉公に出されたが、二年ほどで飛び出し、行商人になったり、奇術師の一座に加わり、全国を放浪した。
その三田光一の名が心霊界、霊術界に一躍とどろいたのは、心霊研究のパイオニア福来友吉博士の実験霊媒となったことによる。福来友吉は、大正六年二月、 非常に厳しい条件のもとで、三田を対象とした透視念写実験を行い成功を収めた。
以来、福来と三田の実験は何度も繰り返される。有名なのは「月の裏面の念写」である。当時、福来友吉は大阪府箕面村に住んでいたが、三田は四十キロもはなれた兵庫県須磨の自宅から遠隔念写を試みた。昭和六年六月二十四日午後八時二十分、 福来友吉は二枚の乾板をケースに入れて自宅二階の床の間に置いた。八時三十分にその乾板に向けて念が送られてくる約束になっている。時計が八時三十分に なったことを確認した福来がただちに乾板の現像にかかると、たしかに月の裏側の映像らしきものが写っていた。当時は月の裏側は誰も見たことがなかったが、昭和四十八年、ＮＡＳＡが月の裏面写真を発表する。
三田の透視念写の結果がはたして的中しているのかどうか、その判定は見る人によって異なるが、遠隔地から乾板を感光させた離れ業が事実とすれば、驚異的という以外にない。
